「奇跡の海」の保全を質す(9月山口県議会質疑⓷)

議会名 所属会派 質問者 質問日 区分 答弁
R6.9定例 社民党・市民連合 中嶋 光雄 9/26(木) 一般 環境生活部長

3 「奇跡の海」の保全について   

 (1)国策の優先順位について  

上関町長島周辺の海は多くの希少生物が生息することなどから、海外も含めて多くの研究者が訪れ、「失われたと思っていた瀬戸内海の自然が唯一残っている場所」と指摘されたことから、「奇跡の海」と呼ばれています。

 この海に関し、県内の5団体が8月に県知事に「上関町での『使用済み核燃料中間貯蔵施設』及び原発計画に関する生物多様性の観点からの要請書」を提出、意見交換を行いました。

 この「奇跡の海」を保全すべく、6月定例会での私への答弁を含め、質問します。

①(上関町長島をぐるり取り巻く)海域は、現在、共同漁業権が免許されている。②海洋保護区は、該当する法律等により、既に生物多様性を保全するための規制が講じられている。➡意見交換の中で、「共同漁業権区域も海洋保護区の中の一つであると県も認識している。③公有水面埋立法に基づき、法令に従い、厳正に対処した。埋立免許を取り消すことは考えていない。…との答弁・回答でした。

①~③からは、所管外の事には答えようがない。との各部の逃げの姿勢が明らかになっただけです。

 そこで、所管の壁を超え総合的な判断をされる副知事あるいは知事に伺います。

 先ず、2022年の昆明・モントリオール生物多様性枠組みという国際合意や、それに対応した2023年3月に閣議決定された第6次生物多様性国家戦略も国策。国のエネルギー政策も国策。これらの国策に対し、優先順位をつけておられるのか、お聞かせください。

「奇跡の海」の保全についての御質問のうち、国策の優先順位についてのお尋ねにお答えします。

生物多様性国家戦略は、生物多様性条約と生物多様性基本法に基づく基本的な計画であり、人間の安全保障の根幹である生物多様性、自然資本を守り活用するための戦略です。

また、エネルギーは、国民生活の安定向上並びに国民経済の維持発展に欠くことのできないものであり、エネルギー政策は国家運営の基本です。

これらの政策は、国において責任を持って進められるべきものであって相互間に優劣はなく、県として優先順位はつけていません。

3 「奇跡の海」の保全について  

 (1)国策の優先順位について (再質問) 

再質問・・・先ず、知事は、「上関町の中電所有地が面する海は、すべて生物多様性を保持することをめざした海洋保護区である」と、報告を受けられ、そのように認識していますか?お聞かせください。

その上で、海洋保護区である田ノ浦地先の海域の埋め立ては、生物多様性国家戦略たる国策を阻害することになると言わざるを得ませんが、見解を伺います

「奇跡の海」の保全についてのうち、生物多様性に関連した2点の再質問にお答えします。

上関町の中電所有地が面する海についての認識についてです。

上関町における中国電力所有地が面している海は、自然公園法に基づく瀬戸内海国立公園であるため、海洋保護区に該当すると認識しています。

次に田ノ浦地先の海域の埋立は、生物多様性国家戦略からなる国策を阻害するのではないかについてです。

生物多様性国家戦略は、個別の開発行為を規制するものではないことから、田ノ浦地先の埋立が、生物多様性国家戦略を阻害するものではないと考えています。

議会名 所属会派 質問者 質問日 区分 答弁
R6.9定例 社民党・市民連合 中嶋 光雄 9/26(木) 一般 土木建築部長

3 「奇跡の海」の保全について

(2)埋立免許の伸長許可について         

6月県議会での漁業権放棄についての答弁、「漁業補償契約については、当事者間の契約に関わることであるため、県として、見解を述べる立場にありません。」に関連して質問します。

 公有水面埋立法に基づき県知事免許を受けたものは、埋立てを行う権利を付与された(以下、埋立権という)ことになる。ところが、この埋立権なるものに関して、公有水面埋立法のどこにも「物権である」とか「物権とみなす」とかの規定は無いため、埋立免許取得者(中国電力)は、他の自由使用(祝島漁民の自由漁業等)を排除できません。中電が祝島漁民に「おまえ達じゃまだからどけ」と言って排除できないのです。ましてや中電は旧四代漁協に共同漁業権を放棄させているのですから、祝島漁民に「妨害しないでください。」とお願いする他なかったのです。

 にもかかわらず、2022年の「公有水面埋立に係る工事の竣功期間伸長の許可」の審査にあたり、「埋立工事に先立って実施する必要がある海上ボーリング調査について、調査地点付近で複数の船舶を停泊させるなどの行為が継続してあったことなどにより、当該調査を終了できず、埋立工事を期限内に竣功できなかったこと、また、これについては訴訟により解決を図ることが説明されており、合理的な理由が認められる。」として、訴訟期間11月を含めて伸長許可している。

 そこで、中電と祝島漁民等の間の問題だが、当事者間に関わることには県は関与しないとする一方で、中電の言い分は取り上げる。不公平だが何故か。お尋ねです。

 さらに、中電大株主たる本県が、中電に便宜を図るかのような行為は、利益相反行為になるのではないか。お尋ねです。

「奇跡の海」の保全についてのお尋ねのうち、埋立免許の伸長許可についてお答えします。

お尋ねの2022年の竣功期間伸長の申請については、埋立工事に先立って実施する必要がある海上ボーリング調査において、調査地点付近で複数の船舶を停泊させる行為が継続してあったことなど、調査の実施に支障となる事実があったことを確認し、工事を期間内に竣功できなかった合理的な理由があると認められたことなどから、伸長許可したものです。

県としては、埋立免許権者として、公有水面埋立法に基づき、適正に対処したところであり、中国電力の言い分だけを取り上げる不公平な扱いではなく、また、中国電力に便宜を図るような行為との御指摘は当たりません。

3 「奇跡の海」の保全について

(2)埋立免許の伸長許可について(再質問)

再質問・・中電が約束の期間内に埋立工事を竣功できなかった最大の要因は、国策に最早新規原発がないことであり、故に知事自身が埋立てしないように要請しているからですが、中電の埋立免許伸長許可申請書は、この事には全く触れておらず、また審査においても全く触れていません。明らかに恣意的な不作為と言わざるを得ませんが、審査対象としなかった理由をご説明下さい。

先ほどの部長答弁の中でありましたけれども、ボーリングに、いや、埋立てに先立ってというお話がありましたけれども、私たちは国の資源エネルギー庁に聞きましたけれども、国として中電さんにそんな指示を出した覚えもないし、中電さんが勝手にやられてることですと、こういうふうに言われました。このことについてどう思われますか。

「奇跡の海」の保全についてのお尋ねのうち、埋立免許の伸長許可についての再質問にお答えいたします。

 埋立免許の伸長許可にあたって、知事の要請書を審査対象としなかった理由についてです。

公有水面埋立法において、許認可を行う場合、提出された申請書に基づき判断することとされており、埋立免許権者としては、申請内容の的確な把握に努め、法に基づき、適正に審査を行うこととなります。

令和4年の期間伸長申請において、指定期間内に埋立工事を竣功できなかった理由については、知事の要請への対応が理由であるとの説明はなされていないことから、要請については審査していません。

また、ボーリングの埋立てに先立って指示等はしてないか。勝手にやったことと思うがどうかというようなご質問であったかと思います。

埋立工事により地層が乱される可能性があることから、実質データの確実な取得のためには、埋立工事に先立って海上ボーリング調査を実施しなければならないということが主張されており、県としては、埋立ての意思を持って申請がなされ、申請の内容が合理的と認められたことから、正当な事由があると判断し、延長許可したものであります。


使用済み核燃料「中間貯蔵施設」(9月山口県議会質疑④)

議会名 所属会派 質問者 質問日 区分 答弁
R6.9定例 社民党・市民連合 中嶋 光雄 9/26(木) 一般 商工労働部理事

4 使用済み核燃料「中間貯蔵施設」について

 関西電力は福井県に、「使用済み核燃料の県外搬出」を再三再四約束、そのたびに反故。そして、今年9月までに完成の予定であった六ヶ所村再処理工場の完成時期が27回目の延期で二年半先延ばしされたため、関西電力が昨年10月に福井県に示していた「2026年度に使用済み核燃料を再処理工場へ搬出する」 ことを前提とするロードマップも瓦解(参考資料②参照)。今回はさすがに杉本福井県知事も、今年度末までにロードマップの見直しをするという関西電力に対し、「実効性のあるロードマップが示されない場合は、原発内に一時保管する乾式貯蔵を認めない」(朝日9月6日)と強い口調で迫っています。

9月9日から開催の福井県県議会でも、与党自民党をはじめ全県議からも、怒りの声がわき上がっています。福井テレビは、その様子を次のように伝えています。

【県議会の代表質問で、主な会派から「関電が約束を守らない以上、原発を即停止するべき」との意見が相次ぎました。12日に行われた県議会の代表質問で、最大会派・自民党の議員は、再処理施設の完成の遅れから関西電力の使用済み核燃料の県外搬出計画にも遅れが出ることについて「美浜3号、高浜1、2号機の運転を実施しないという発言をしているが、ロードマップを見直さなければならないこの状況では、当時の発言まで立ち戻って議論する必要がある」と述べました。県議会は、これまで県の原子力政策に関し、全面的に知事に一任してきましたが、国や関電だけでなく杉本知事にも厳しい判断を迫った形となりました。】と。

「搬出予定が二年半先に延びた」ということは、単に福井県内の問題にとどまらず、当然ながら上関町の中間貯蔵計画にも大きな影響を及ぼすことになります。  

もし再処理工場が計画通り操業できていれば、使用済み核燃料は原発サイトおよび中間貯蔵施設から順次、六ケ所へ搬出される、と言うのが、そもそもまやかしです。

杉本福井県知事は9月6日、「(新たなロードマップが)必要な搬出容量を継続的に確保していける内容かどうかだ」とも述べています。

しかし、福井県知事のいうところの「実効性のあるロードマップ」など期待する方が、しょせん無理なのではないでしょうか。なぜなら、再処理工場が順調に操業できたとしても、使い道のない余剰プルトニウムと行き先のないガラス固化体(高レベル放射性廃棄物)が大量に生まれ続けるだけです。

青森県は29年前に、英仏から返還されたガラス固化体2,140本を30~50年の暫定保管で受け入れました。国は「青森県内を最終処分地にしない」と約束しましたが、約束の30年を控えた今も行先は決まっていません。北海道の寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村は、地層処分の概要調査を受け入れていますが、北海道には「核のゴミを持ち込ませぬ道条例」があり、道知事は概要調査にも反対しています。また昨年は、長崎県対馬市で、地層処分の概要調査を拒否する自民党現職の市長が再選されました。

英仏から返還されたガラス固化体2,140本の行先も見えない中で、仮に再処理工場が本格稼働(年間800tUの使用済み核燃料を再処理)すれば、新たにガラス固化体が年間約1,000本も発生(フル操業時)してしまうのです。このような馬鹿げたことが始まれば、青森県民だけでなく、わが国の国民は黙ってみているでしょうか。国を揺るがす大きな社会問題となることは必定です。

再処理工場をフル操業すれば、ガラス固化体とは別に、年に6.6㌧ものプルトニウムが生まれてしまいます。わが国の原子力委員会は「余剰プルトニウムを持たない」という国際公約を実現するため、「六ヶ所再処理工場、MOX燃料加工工場及びプルサーマルの稼働状況に応じて、プルサーマルの着実な実施に必要な量だけ再処理が実施されるよう認可を行う」(我が国におけるプルトニウム利用に関する基本的な考え方, 2018.7.31)という方針をとっていることを念頭に置く必要があります。

プルサーマルは、2016年に高浜3・4号機で再開されたものの、認可されている本数を下回るMOX燃料を、ほとんど申し訳程度に装荷しているにすぎません。

電力会社の本音は、燃料加工費が10倍も高くつくプルサーマルには消極的なのです。

佐賀の玄海3号機と愛媛の伊方3号機はフランスに保管されているわが国のプルトニウムを使い果たし、現在、プルサーマルを中断しています。

沸騰水型原発ではプルサーマルを始める見通しさえたっていません。 これまでのプルサーマルによるプルトニウム消費実績は、長期停止期間を除き、13ヶ月運転・3ヶ月定検を仮定して計算しても年平均0.69t にとどまっています。つまり、六ヶ所再処理工場での操業率10%程度分しか、プルサーマルでプルトニウムを燃やすことができていないのです。

再処理工場10%程度の操業では、40年間を費やしても3,200tUしか再処理できません。これは、これまでに六ヶ所再処理工場へ送られて工場内のプールで貯蔵されている2,968tU(2023年3月末)を250tU上回る程度です。なお、再処理工場の寿命は40 年です。つまり、2024年3月末現在の全国の原発サイト内の使用済燃料16,720tUの大半は、40年後も再処理工場へ搬出できないまま「核のゴミ」になる運命を背負わされることになるのです。「将来の搬出」先はどこにもありません。

2000年に、更(ふけ)田(た)(前)原子力規制委員長が、むつ市の中間貯蔵施設について「使用済み核燃料を運び出す先がない状態で、容器の耐用年数に近づく事態を恐れる」と貯蔵の長期化を懸念していたのは、たとえ再処理工場が操業できたとしても、工場の稼働が制限されることを氏はしっかり認識していたからなのです。

上関町が「中間貯蔵」という名目で、いったん使用済み核燃料を受け入れれば、上関町での永久保管となることは必至です。

福井県知事が、「今年度末までに、実効性のあるロードマップが示されない場合は、使用済み核燃料を原発内に一時保管する『乾式貯蔵』を認めない考え」と表明しているこの機会にこそ、山口県としても、真に未来を見据えて、県内に核のゴミを受け入れないとの表明を内外に発信する好機ではないでしょうか。

今後、国策の名の下に、中間貯蔵を国も強力に推し進め、迫ってくる可能性があります。その前に一刻も早く知事が決断されることを期待いたします。知事の見解を伺います。

 使用済み核燃料中間貯蔵施設についてのお尋ねにお答えします。

 上関町における使用済燃料中間貯蔵施設については、現在はあくまでも、施設が立地可能なのかどうか、その調査が実施されているところであり、県としての対応を申し上げる状況にはないものと考えています。

4 使用済み核燃料「中間貯蔵施設」について(再質問)

再質問・・・1990年代以降、関西電力は福井県に、「使用済み核燃料の県外搬出地」を再三約束し、その度に反故。そして「2023年末を最終期限として確定する。決められない場合は3原発を停止する」と約束、切羽詰まっての上関だが、時間がかかる。

その延長上での、今回の再処理工場の二年半延期で、関電が福井県に示していた「ロードマップ」の瓦解です。

9月13日の福井県議会・全員協議会の場でも、釈明に来た関西電力本部長と資源エネ庁担当者に対する厳しい発言が伝わっています。

『本当に大丈夫なのかというロードマップを我々は認めた。それがここにきて、ロードマップは白紙になった。

なんとかなるだろうという甘い認識が我々にもあったかもしれないが大きな間違いだ。指導指導って国は言ってるが、言い訳にしかなってない。こんな会議なら開く必要ない。』とまで、元県議会議長の自民党県議は、激しい口調で資源エネ庁と関電に迫っています。

使用済み核燃料をめぐる、福井県でのこれまでの議論を他山の石とすべきです。見解を伺います。

現在、わが国が保有するプルトニウムは45㌧もあり、余剰プルトニウムを持たないとする国際公約がある。原子力委員会は「プルトニウム量を減らせなければ再処理工場の稼働を制限」する方針です。特に、アメリカからの核拡散の懸念を無視してまで、再処理工場をフル稼働する度胸が政府にある訳がない。

また、本質問で指摘した、再処理工場は10%操業に留まらざるを得ないとの問題点を直視したとき、いったん上関町に中間貯蔵施設を受け入れれば、永久貯蔵は必然です。

 原発サイト外の使用済燃料乾式貯蔵対策・初期対策交付金相当部分は、1.4億円が県知事同意の年度まで交付、県知事同意により9.8億円が2年間交付される等となっており、県知事同意が決定的意味を持っています。

 そこで、知事の良識あるご決断を重ねて求めます。お尋ねします。

使用済み核燃料「中間貯蔵施設」に関する再質問にお答えします。

まず、福井県での議論を他山の石とすべきとのお尋ねについてです。

福井県において関西電力の示したロードマップ等に関し、 現在、福井県の議会等で様々な議論が行われていること等については、報道により承知していますが、そうした他県の議会等での議論について、県として見解を述べる立場にはなく、お答えできるものはありません。

次に、再処理施設のフル稼働はできず、中間貯蔵は永久貯蔵になる、決断を求めるとのお尋ねについてです。

  エネルギー政策は国家運営の基本であることから、再処 理施設の稼働など核燃料サイクルをどうするかについても、 国の責任において判断されるべきものと考えています。

 いずれにしても、上関町における使用済燃料中間貯蔵施 設については、現在はあくまでも、施設が立地可能なのか どうか、その調査が実施されているところであり、県としての対応を申し上げる状況にはないものと考えています。

4 使用済み核燃料「中間貯蔵施設」について(再々質問)

再々質問・・・上関町長が、9月町議会で、「施設は使用済み燃料を再処理工場に搬出するまでの間、一時的に管理するもので、必ず搬出されることが想定されている」「最終処分場になることは無い」との答弁は、「あとは野となれ山となれ」、「40~50年先の将来はあずかり知らぬ」、なんでしょう。

詰まるところ、原発には未来がないのであり、原発政策とは未来に核のゴミを押しつける、世代間差別政策に他ならないのではと、お尋ねし、質問を終わります。

使用済み核燃料「中間貯蔵施設」についての再々質問にお答えいたします。

原発政策とは、世代間差別政策に他ならないのではないか、とのお尋ねについてです。

  エネルギー政策は国家運営の基本であり、原発をどうするかについては、安全性、信頼性の確保を大前提に、国の責任において判断されるべきものです。

したがいまして、県として、お尋ねのような事柄について、見解を述べることは考えていません。


生物多様性から見た上関『使用済み核燃料中間貯蔵施設』計画

生物多様性から見た上関『使用済み核燃料中間貯蔵施設』計画 ~海洋保護区での港湾・防波堤建設や埋立て・浚渫はあり得ない~

環瀬戸内海会議・湯浅一郎共同代表(平和フォーラム・平和軍縮時評への投稿より、以下引用

 上関町・田ノ浦海岸を初め中電所有地が面する海はすべて海洋保護区とされている。そうなれば、まずは既に行われている山口県知事の田ノ浦沖に関する埋立て承認は、生物多様性の保全を目的とした海洋保護区を埋めることを承認するというあり得ない行為であり、「生物多様性基本法に照らして法的な瑕疵がある」ことになり、撤回されねばならないことは明らかである。1982年、地元自治体の誘致で始まった上関原発計画の海面埋め立てに関する山口県知事の埋立て認可は、生物多様性国家戦略の閣議決定、及び愛知目標に対応して海洋保護区が選定されているという新たな文脈の中で、その不当性が浮かび上がっている。

2022年11月28日、中国電力(以下、中電)の上関原発建設の埋立て免許の延長申請に対して、山口県知事は公有水面埋立て免許期限を2027年6月まで延長する3回目の承認を行った。同時に山口県は、中電に対し原子炉の設置許可が出て、原発本体の着工時期が見通せない間は埋立てをしないようにとの条件を付している。いずれにせよ上関原発建設計画はくすぶったままである。

さらに2023年8月2日、中電は、今度は関電の苦境を救う一助として、使っていない上関町の所有地での「使用済み核燃料中間貯蔵施設」の立地調査を表明した。再処理工場の稼働が全く見通しが立たないことなどで核燃料サイクルが破綻している中で原発再稼働を推進するというあまりにも愚かな国の方針のつじつま合わせのために、極めて不当な政策が出てきたのである。しかし、そんなことのために、かけがえのない自然と生物多様性を壊すわけにはいかない。海洋保護区での港湾・防波堤建設や埋立て・浚渫は生物多様性の保全の観点からみてありえない計画であることを明らかにする。

1.100%海洋保護区で囲まれた中電所有地

2024年6月26日、山口県議会において中嶋光雄議員が「公開されている共89号(長島西部)、共84号(長島中部)(令和6年(2024年)1月1日更新)の図のすべての海域が共同漁業権を有していると考えてよいのか」との質問を行った。これに対し、山口県は「共同漁業権共第84号と共第89号の漁場図で示している全ての海域について、現在、共同漁業権が免許されています」と答弁した。

山口県HPに掲載されている共同漁業権第89号の海域図を図1(注1に示す。私は、この図を見たとき、長島西端の田ノ浦沖の上関原発の埋立て予定地が含まれる海域との境界が示されていないことに疑問を持った。田ノ浦の海域については、2000年4月27日、四代や上関漁協と中電との間で漁業補償契約書(注2が取り交わされ、田ノ浦沖と取水口用の2か所の海域は「漁業権消滅区域」とされている(図2)。しかし、図1に、図2で示した「漁業権消滅区域」との境界がないということは、漁業補償海域にも共同漁業権があるということなのかという疑問があった。 中島県議の質問に対する山口県の答弁は、この疑問に関して「今も共同漁業権がある」という回答を与えている。田ノ浦沖は、漁業補償がなされて漁業権が放棄されたようになっているが、なぜ共同漁業権はあるのか? 漁業法で、漁業権は「漁業を営む権利」と定義されており、漁業者が免許申請をしてきた場合には、県知事としては「漁業の免許」を半ば自動的に出しているということなのではないか?

図1 山口県長島における共第89号共同漁業権区域図

図2 漁協と中国電力との漁業補償に基づく漁業権消滅・準消滅・工事作業区域図

 

いずれにせよ、この事実は中間貯蔵施設や上関原発計画に関して極めて重要である。これにより、中電所有地が面する海は、すべて生物多様性の保全という目的を持った海洋保護区であることになるからである。背景は以下である。

2010年、名古屋で開催された生物多様性条約第10回締約国会議において、2020年に向けて生物多様性を保全し、回復するための国際合意として20項目にのぼる「愛知目標」が採択された。その第11項目は「2020年までに沿岸の10%を海洋保護区にする」としている。これを受けて環境省は、2011年5月、「我が国における海洋保護区の設定の在り方について」(注3なる文書で海洋保護区を以下のように定義した。

「海洋生態系の健全な構造と機能を支える生物多様性の保全及び生態系サービスの持続可能な利用を目的として、利用形態を考慮し、法律又はその他の効果的な手法により管理される明確に特定された区域」

この定義に基づき、環境省は、2020年予定の第15回生物多様性条約締約国会議に向け、いくつかの法的な枠組みで持続的に利用できるような海域を保護区とする作業を進めた。コロナ禍でやや遅れたが2021年8月の環境省の資料(注4には、その結果が以下のように示されている。

①自然景観の保護等;自然公園(自然公園法):優れた自然の風景地保護と利用の増進。
②自然環境又は生物の生息・生育場の保護等;
・自然環境保全地域、沖合海底自然環境保全地域(自然環境保全法):保全が特に必要な優れた自然環境を保全する
・鳥獣保護区(鳥獣保護管理法):鳥獣の保護
③水産動植物の保護培養等
・保護水面(水産資源保護法):水産動植物の保護培養。
・沿岸水産資源開発区域、指定海域(海洋水産資源開発促進法) 水産動植物の増殖及び養殖を計画的に推進するための措置等により海洋水産資源の開発及び利用の合理化を促進
・共同漁業権区域(漁業法) 漁業生産力の発展(水産動植物の保護培養、持続的な利用の確保等)等

つまり日本では、愛知目標の「海の10%を海洋保護区にする」を、自然公園法、自然環境保全法、鳥獣保護管理法、水産資源保護法、海洋水産資源開発促進法、漁業法など既存の法律に基づいて作られている「特定の区域」を、そのまま海洋保護区として選定することで対応したのである。この中で最も面積が広いのが共同漁業権区域である。これによりほぼ90%の瀬戸内海はすでに海洋保護区になっている。日本全国で言うと、このかたちで8.3%の日本の周りの水域が海洋保護区に指定され、国連にも報告されている。

しかし、漁業者を初め市民に、ほとんどこの認識はない。かく言う私自身が、昨年10月まで明確には認識していなかった。このような事態が起きている背景には、環境省や各県が、愛知目標に対応した海洋保護区が決まっていて、瀬戸内海では共同漁業権区域が切れ目なく張り巡らされている関係で、海辺から普通に見ている海はほとんど海洋保護区であることを市民に知らせようとしていないことに起因している。

いずれにせよ以上から分かるように共同漁業権区域は海洋保護区とされているわけである。ここで、冒頭で示した山口県議会における中島県議の質問に対する山口県の答弁が生きてくる。つまり上関の中電所有地が面する海には共同漁業権が存在し、結果として100%海洋保護区になっているということになる。

2.上関の海は「生物多様性の観点から重要度の高い海域」の一つ

一方、生物多様性からの評価については、環境省が2016年に抽出している既存の『生物多様性の観点から重要度の高い海域』の沿岸域270海域があり、瀬戸内海には57海域がある(注5。これらは、以下の8つの抽出基準を基に評価されている。

1.唯一性または希少性、2.種の生活史における重要性、3.絶滅危惧種、4.脆弱性、感受性または低回復性、5.生物学的生産性、 6.生物学的多様性、7.高い自然性の保持、 8.典型性、代表性

その270海域には、原発予定地や立地点が含まれる。中でも上関原発予定地である田ノ浦海岸は「長島・祝島周辺」と名付けられた「海域番号13708」の中心に位置している(図3参照)。

図3 上ノ関原発予定地を含む重要度の高い海域「長島・祝島周辺」

環境省によれば、この海域には、先に見た抽出の基準ごとに以下の特徴がある。

・基準2(生活史における重要性);[哺乳類]スナメリ、[鳥類]コアジサシ(営巣)、[魚類]イカナゴ(産卵場)、ヒラメ(産卵場)、マダイ(産卵場)、[甲殻類等]カブトガニ、[頭足類]マダコ。
・基準3(絶滅危惧種):[鳥類]コアジサシ、[維管束植物]ヒロハマツナ。
・基準7(自然性):[甲殻類等]カブトガニ、[維管束植物]ウラギク、ヒロハマツナ、フクド。

そして特徴として「祝島と長島を隔てる水道はタイの漁場として有名であり、スナメリやカンムリウミスズメが目撃されている。岩礁海岸ではガラモ場が非常によく発達しており、生産性も高い。宇和島ではオオミズナギドリの繁殖地が見つかっている。」「護岸のない自然海岸が多く、瀬戸内海のかつての生物多様性を色濃く残す場所である」としている。270海域の中でも生物多様性の豊かさという点ではトップクラスなのである。

加えて先に1.で見たように田ノ浦海岸を初め中電所有地が面する海はすべて海洋保護区とされている。そうなれば、まずは既に行われている山口県知事の田ノ浦沖に関する埋立て承認は、生物多様性の保全を目的とした海洋保護区を埋めることを承認するというあり得ない行為であり、「生物多様性基本法に照らして法的な瑕疵がある」ことになり、撤回されねばならないことは明らかである。1982年、地元自治体の誘致で始まった上関原発計画の海面埋め立てに関する山口県知事の埋立て認可は、生物多様性国家戦略の閣議決定、及び愛知目標に対応して海洋保護区が選定されているという新たな文脈の中で、その不当性が浮かび上がっている。

3.海洋保護区での法的規制は無く、国家戦略に照らした検証プロセスは存在しない

しかるに海洋保護区に選定されていたり、生物多様性国家戦略があるから自動的に開発は止まるわけではない。環境省は、設定した海洋保護区の生物多様性を保持するための指針や法的規制については何も定めていない。「各所管省庁がそれぞれの制度の目的に応じてその目的達成に必要な規制を設けており、それらの適切な運用を通じて、海洋保護区を管理していくことが重要である」としているだけである。つまり、せいぜい当該の法制度の運用によって管理していくとしているだけなのである。「海洋保護区」と称しただけで、それが実効的に有効になるための措置を取ろうとしていないのである。しかし、海洋保護区と称した以上、その目的に照らして「生物多様性の保全に逆行する行為は禁止する」との規制をかけるべきである。

生物多様性国家戦略に照らして事業の妥当性を検証するプロセスはできておらず、環境省は、「国家戦略は、生物の保全、及び持続可能な利用に関する基本的な計画である」としつつも、「個別具体的な事業について言及しているものではない」としている。これでは、生物多様性国家戦略を閣議決定し、2030年までに「陸と海の30%以上を保護区にする」などとしていても、生物多様性の低下を抑えることは全くおぼつかない。

20世紀末、人類は、このまま生物多様性を破壊していけば自らも含めて破滅への道であることに危機感を抱き、1992年、リオデジャネイロ(ブラジル)での地球サミットで生物多様性条約と気候変動枠組み条約をセットで採択した。しかし30年間の努力にもかかわらず事態の改善は見えていない。この状況を打開すべく2022年12月19日、生物多様性条約第15回締約国会議(モントリオール)は、生物多様性の維持・回復に関する「昆明(クンミン)・モントリオール生物多様性枠組み」に合意した。2050年までの長期ビジョン「自然と共生する世界」と、そのため2030年までに「陸と海の少なくとも30%を保護区にする」など23目標を盛り込んでいる。これを受け日本政府は、2023年3月31日、「生物多様性国家戦略2023-2030-ネーチャーポジテイブ実現に向けたロードマップ」を閣議決定した。これらの文書の底流には「今までどおりから脱却」し、「社会、経済、政治、技術など横断的な社会変革」をめざすとの基本理念を掲げ、その具体化のため昆明・モントリオール枠組みに即して2030年までに「陸と海の30%以上を保護区にする」など25の行動目標を盛り込んだ。これらにより政府は、生物多様性条約の新たな世界目標、及び生物多様性国家戦略に基づいて国のすべての政策を検証せねばならない義務を負うことになったはずなのである。にも拘わらず個別具体的な事業で生物多様性の損失をもたらすとしか考えられない要素があっても、何一つ対応しようとしていないのである。

 この状況下では市民が問題点を提起し、海洋保護区での港湾建設やましてや埋立てなどはあり得ないとの世論を作り、自治体や政府のありようを変えていく活動を強めていくしかない。

ちなみに全国17か所の原子力サイトで、泊、東通、女川、福島、東海、浜岡、志賀、敦賀、美浜、大飯、高浜、島根の各原発も「重要度の高い海」に面している。共同漁業権に基づく海洋保護区との位置関係などを含め生物多様性国家戦略に照らしての検証が求められる。例えば浜岡原発は「駿河湾西域・御前崎・遠州灘周辺」(海域番号12901)、敦賀・美浜・大飯・高浜の4原発は「若狭湾」(海域番号16301)という名の重要度の高い海域内にある。前者は「大井川河口から遠州灘の海岸はアカウミガメの産卵地」であり、御前崎のウミガメ及びその産卵地が天然記念物指定されている。後者ではヤナギムシガレイ、マダイ、ヒラメなど多くの魚種の産卵場がある。こうした場に核分裂性物質を大量に保管する工場があり、稼働すれば膨大な温排水を放出することの意味が問われるべきであろう。

(注)
1)共89号区域図https://www.pref.yamaguchi.lg.jp/uploaded/attachment/169136.pdf
2)漁業補償契約書(2000年4月27日)。
http://www.kumamoto84.sakura.ne.jp/Kaminoseki/000427hoshoukeiyakusho.pdf
3)「我が国における海洋保護区の設定の在り方について」
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kaiyou/dai8/siryou3.pdf
4)令和3年度 第1回 民間取組等と連携した自然環境保全の在り方に関する検討会、資料3。https://www.env.go.jp/content/900489164.pdf
5)環瀬戸内海会議HP。
https://www.setonaikai-japan.net/00kansetonaikaikaigi/301topics/topics301.html

湯浅一郎さんの提起を受け、7月8日に環瀬戸内海会議として山口県知事に要請するも、事務局が県外であるとして要請書は受け取るが回答は拒否。そこで、改めて同趣旨で県内5団体として8月9日に要請し意見交換するも、県の姿勢は無責任かつ冷淡そのもの・・・


<要請項目>

1.県内の海の生物多様性を長きにわたって後世に残すために、県として<海洋保護区においては、生物多様性を低下させるいかなる行為もしてはならない>とする姿勢を打ち出すこと。

2.まず真っ先に海洋保護区としての田ノ浦地区の生物多様性を抹殺することになる上関原発建設のための埋立て承認を撤回すること。

3.上関町の中国電力所有地他における「使用済み核燃料中間貯蔵施設」建設計画に伴って港湾建設や防波堤建設等行う場合は、海洋保護区内における生物多様性の低下をもたらすことになるので禁止すること。


上関原発予定地の埋め立て免許、延長撤回を 山口県に原水禁県民会議などが要請

2024/8/9(最終更新: 2024/8/9) 中国新聞

中国電力の山口県上関町での原発建設計画や、使用済み核燃料の中間貯蔵施設建設の検討を巡り、原水禁県民会議など県内5団体が9日、生物多様性への影響の観点から、予定地の埋め立て免許の延長許可の撤回などを求める要請書を県に提出した。

約20人が県庁を訪れ、同会議の森本正宏議長が産業労働部の鈴森和則理事に手渡した。予定地は国が定める海洋保護区に面しており、埋め立ては生物多様性の低下をもたらすとして免許の延長許可の撤回と、中間貯蔵施設建設に伴う港湾や防波堤整備の禁止を求めた。

鈴森理事は「法令に従い厳正に対処しており、免許撤回は考えていない。中間貯蔵施設については調査が実施されており、県としての対応を申し上げる状況にない」と答えた。7月にも瀬戸内海の環境保全を目指す住民団体の環瀬戸内海会議(岡山市北区)が同趣旨の要請書を提出している。(江頭香暖)