3、鳥獣被害対策について

2025年9月県議会

本県の令和6年度有害鳥獣による農林産物被害額は3億4千8百万円で、これは20年前の平成17年の7億6千3百万円に比べて45.66%に減っています。

しかし全国的に、鳥獣被害は営農意欲の減退、耕作放棄・離農の増加さらには、森林の下層植生の消失等による土壌流出、希少植物の食害等の被害ももたらしており、被害額として数字に表れる以上に農山漁村に深刻な影響を及ぼしています。

今年度当初予算において、「鳥獣害と戦う強い集落づくり事業」として413,204千円が計上され、野生鳥獣による農林業被害を低減させるため、地域ぐるみ活動を支援するとともに総合的な鳥獣被害防止対策(防護・捕獲対策や新たな技術の開発・実証)を推進するとしています。

先ず、これらの通年の取り組みの成果と反省も踏まえ現状をどのように認識されているのかと、今後の対策方針をお聞かせください。

また、「やまぐちジビエ利用加速化事業」が39,960千円計上され、ジビエ利用の更なる促進を図るため有害捕獲個体のジビエ処理施設への広域搬入体制整備や狩猟捕獲個体の搬入等など、野生鳥獣をジビエとして安定的に供給する体制を整備するとともに、ペットフードへの活用や学校給食での食育など利用拡大に向けた取り組みを推進するとしています。

被害防止の為に捕獲を進めるだけでなく、捕獲鳥獣を地域資源(ジビエ等)として利用し、農山村の所得に変えるような、有害鳥獣を「マイナス」の存在から「プラス」の存在に変える取り組みが重要になっています。そこで、出口戦略としてのジビエ活用に関して、ジビエ処理加工施設の実態把握及び育成支援については、どのような認識なのか、お聞かせください。

令和5年度に野生鳥獣の食肉処理を行った処理加工施設は全国で772施設、県内には15施設ありました。

令和5年度野生鳥獣資源利用実態調査報告(農林水産省)によると、全鳥獣、イノシシ及びシカの解体頭・羽数規模別施設数の割合は、50頭・羽以下施設が46.8%、51~100頭・羽が15.5%、101~300頭・羽が19.7%で、この3区分の施設が全体の82%を占め、家族経営ないし小規模経営がほとんどを占めています。(参考資料①)

今回の質問にあたり、操業5年、解体が101~300頭・羽規模で販路拡大など順調に経営が安定しつつあったところ、食品衛生法の改正等による行政の指導が厳しくなり、一転操業・経営が困難になったとの切実な窮状をお聞きしました。

具体的には、この施設で、50㎏のイノシシを食品加工する場合、10㎏は食肉製品(1㎏@3500円)、5㎏はペットフードやミンチ肉(1㎏@1000円)に商品化でき、35㎏の食肉加工残渣が出る。

売価(儲け)は、10×3500の35,000円と5×1000の5,000円の40,000円になる。これは直売の場合で、問屋を介すと6掛けが相場で、売り上げは、40,000円~24,000円になる。

一方、狩猟捕獲個体の搬入料が10,000円、食肉加工残渣の産廃処理費が35㎏×300円=10,500円で、設備減価償却費や電気料に人件費などの固定費もかかるので、到底、採算が合わなくなった。と嘆いておられました。

この方は,操業から5年間は、残渣は市の一般廃棄物処理施設での処分で良かったのですが、この施設の事業形態が、直接店売りよりレストラン等への卸売り・通信販売・ふるさと納税品などの売り上げが上回っているとの行政指導が入り、有害鳥獣捕獲個体を食品加工後の処理において、内臓等の解体残渣(ざんさ)の産業廃棄物処理費(1K=300円)がかかることになり食品加工施設の経営が立ちいかなくなったのです。

確かに、食肉等として事業者が利活用のために加工した際に生じる残渣については、各自治体の解釈にもよるが、基本的には産業廃棄物として事業者の責任で処理しなければならない。

しかし産業廃棄物の処理に相当程度の費用がかかる。そこで、捕獲活動による農林業への被害防止や、食品加工業の育成による地域振興の観点から、食品加工残渣を「あわせ産廃」として一般廃棄物処理施設で安価で受け入れることができれば経済的にメリットが大きく、産業廃棄物は事業者が自ら処理しなければならないが、市町村は処理が必要であると認める産業廃棄物を、一般廃棄物と「あわせて」処理することができる(廃棄物処理法第11条)とされており、食品加工残渣は、「動植物性残さ(食料品製造事業等から生ずる骨や内臓等の固形状の不要物)」として熊本市などでは受け入れている。(参考資料②)

そこで、有害鳥獣捕獲事業は農林水産部が鳥獣被害防止計画をもとに進め、処理事業も農林水産部が担うことがほとんどのようですが、廃棄物の専門知識を有した生活環境部と協力、連携し、捕獲事業と処理事業が一体となった有害鳥獣捕獲の事業計画を策定していくことが望ましい姿ではとの観点から、食肉加工残渣を「あわせ産廃」として市町の焼却施設で受け入れできるよう県が率先、推奨すべきでは。是非とも検討願いたく、ご所見をお聞かせください。

村岡知事答弁・・・中嶋議員の御質問のうち、私からは、鳥獣被害対策の現状認識と今後の対策についてのお尋ねにお答えします。

 有害鳥獣による農林業被害は、経済的な損失に留まらず、生産者の営農意欲の減退や耕作放棄地の増加など、農山村地域の活力を損い兼ねない大変深刻な課題です。

 このため、私は、市町や関係団体等と連携して、防護柵等の整備や有害鳥獣の捕獲を計画的に進めるなど、防護と捕獲の両面から、総合的な鳥獣被害対策に取り組んできたところです。

 こうした取組により、有害鳥獣による農林業被害額は、平成22年度の約8億円から、令和6年度は約3億5千万円と大きく減少していることから、これまでの対策の成果は、大いにあったものと認識しています。

 しかしながら、本県の農作物被害額は、全国で15位と、依然として高い水準にあり、また、シカやサル、特定外来生物などによる被害が広域に拡大し、増加するとともに、地域における捕獲従事者等の高齢化も深刻な状況となっており、これまでの取組に加え、より効果的・効率的な対策が求められています。

 このため、地域ぐるみ活動等による総合的な被害防止対策を引き続き推進するとともに、今後も被害地域の拡大や被害額の増加が懸念されるシカやサル、特定外来生物に対して、新技術の導入等による、さらなる対策の強化を進めます。

 具体的には、まず、ドローン技術を活用したシカやサルへの対策として、昨年度の実証試験により効果が認められたハンティングドローンによるシカの巻き狩りを推進するとともに、今年度からサルの追い払い技術の開発・実証も行っているところです。

 また、ヌートリアやアライグマといった特定外来生物への対策として、農林総合技術センターが作成した外来種特有の生態や行動等に応じた「被害対策マニュアル」に基づく取組を徹底し、より効果的な捕獲・防護を推進します。

 私は、引き続き、市町や関係団体等と連携しながら、有害鳥獣による農林業被害の軽減対策に取り組んでまいります。 

 その他の御質問につきましては、関係参与員よりお答え申し上げます。

農林水産部長答弁・・・鳥獣被害対策についての御質問のうち、ジビエ処理加工施設の実態把握と育成支援の認識についてのお尋ねにお答えします。

ジビエ処理施設の設置数については、平成28年度の10施設から、15施設に増加しており、処理量は、全施設で12トンから28トンに増加しているものの、全国平均の58トンには届いていない状況です。

さらなるジビエの利用拡大に向けては、新規需要の開拓や、品質確保に向けた取組の強化が必要です。

このため、まず、新規需要の開拓については、道の駅等における特産品イベントでの販売促進を行うとともに、ジビエ加工品等の新商品開発に加え、県庁内食堂や学校給食におけるジビエ料理の提供に対する支援を行っているところです。

また、品質の確保については、国産ジビエ認証の普及に向けた研修会の開催など、関係団体に対し、衛生管理等に関する意識啓発を進めるとともに、処理施設の保冷車等の導入に対して支援を行っています。

環境生活部長答弁・・・野生鳥獣の食肉加工残渣の処理についてのお尋ねにお答えします。

廃棄物処理法では、ジビエ処理加工施設などの食料品製造業者から排出される食肉加工残渣は、産業廃棄物に該当するため、事業者自らの責任において適正に処理することが必要です。

このため、県では、産業廃棄物の適正処理とジビエの利用拡大の両立が図られるよう、関係部局が連携して、食品加工残渣の取り扱いに関する事業者からの相談等に対応するとともに、国事業により処理費用の一部を支援しています。

なお、「あわせ産廃」については、例えば、地域で適正に産業廃棄物を処理できる民間施設がない場合に、廃棄物処理法において、市町村の判断により、一般廃棄物処理施設での受け入れができると規定されたものであり、あくまでも、各市町が法の趣旨を踏まえ実施するものと考えています。

再質問・・・今年4月現在のジビエ処理加工施設名簿によれば山口県ではたしかに15施設になっていますが、私が今回取り上げた方に話を伺った施設は破産廃業されましたので、現在は14施設に減っています。私の質問の段階では最新の調査で全国で772施設でしたけれども、事務局で最新の調査を調べてお聞きしたところ最新では602施設に減っているそうです。これは産廃処分の影響だと、違いないと思っております。

私がお尋ねした施設の方は、「やまぐち創業総合ポータルサイト 創業の窓口」の創業者紹介にも取り上げられ、お話のありましたように県内各地のイベントに出店をされ、ジビエの普及活動や山口県農業高校で臨時講師や(山口)東京理科大学での狩猟部創部に尽力された、意欲あふれる若手創業者でした。

そうにもかかわらず産廃処理費がかかるということで断念をされまして残念でなりません。

県として、創業者支援・育成の観点から何とかやりようがあるのではないか。そういう方向の中であわせ産廃という制度があります。これはぜひ県が推奨していただかなければ道が開けない。このことをやっていただければ、この方の再起の道が必ず開ける、と思っておりますので、重ねてお願いをしたいと思います。

環境生活部長答弁・・野生鳥獣の食肉加工残渣の処理についての再質問にお答えします。

創業者支援や育成の観点から、「あわせ産廃」のような方策を検討できないかとのお尋ねであったかと思います。

食肉加工残渣等の産業廃棄物の処理は、廃棄物処理法により、事業者自らの責任において行うことが求められており、県としては、産業廃棄物の適正処理とジビエの利用拡大の両立を図る観点から、事業者への相談対応や国の事業により処理経費の一部を支援しているところです。

なお、「あわせ産廃」の実施につきましては、繰り返しになりますけれども、あくまでも、各市町が、産業廃棄物を受け入れる民間施設がないなど、地域の実情に応じて、法の趣旨を踏まえ判断するものと考えています。