脱原発・・・(3)上関町の地域振興

脱原発…(3)上関町の地域振興~原発に頼らない上関町の町づくり計画の支援~
次に、中間貯蔵施設について、原発交付金で上関町の振興が図れるのか?…15基もの原発を受け入れてきた福井県で、保革の垣根を越えて、長年、原発問題に取り組んでおられる、「なぜ『原発で若狭の振興』は失敗したのか(白馬社)」を出版されている山崎隆敏さんに財政的な観点からの助言をいただいた。

 表1と表2は、上関町と阿武町と高知県の東洋町(2007年に高レベル放射性廃棄物の処分地の文献調査を、町内の激しい対立を経て拒否した町)の3町の直近(2021年)の決算と、まだ上関町に電源三法交付金が交付されていなかった1981年のそれとの対比です。
 阿武町や東洋町も上関町と同様、目玉となるような観光資源や大きな企業もなく税収も少ないながら、町民が一丸となってまちづくりに励んでいるごく普通の海辺の町です。この三つの町は人口規模5,000人以下を示す類型Ⅰに分類されています。人口規模はほぼ同じですが、阿武町と東洋町(類型Ⅰ-0)の方が、上関町(類型Ⅰ-2)よりも第二次・三次産業の従事者の割合が少なく、より田舎の町と言えます。
 阿武町と東洋町は上関町よりも商工業・サービス業の少ない町で、財政的にも決して豊かとはいえませんが、自治体経営はしっかり成り立っていることがわかります。少なくともこれらの町からは「このままいくとわが町は破綻する」などという泣き言は聞こえてきません。なお上関町だけは2004年以前と2011年~2021年は「類似団体」の類型Ⅰ―2に分類されていますが、2005年~2010年は二町と同じ類型(Ⅰ-0)に分類されていました。
 気になるのは、上関町の人口の減少率です。90年代後半を境に上関町と阿武町の人口数が逆転しています。そして40年後(2021年)の阿武町の人口減少率は50.9%、東洋町が55.0%。上関町は64.0%で、上関町は二つの町より減少率が10%も高いことです(さらにいえば2023年現在の上関町の人口は2,390人となり、1981年比で65.6%の減少となる)。また、阿武町と東洋町の二つの町の地方税収は微増していますが、上関町の税収はほとんど増えていません。人件費や物価の上昇も勘案すれば税収は実質的に落ち込んでいると言えます。
 上関町には、中国電力の原発建設を受け入れた1984 (S59) 年から今日までの40年間に総額76億を越える電源三法交付金が交付されました。1984年の約300万円から交付が始まり、12年目の1995年以降は1億を超え、21年目の2004(H16)年の7億6千万円(広報・調査等交付金を含む)をピークに、その前の約10年間は数億円/年が交付されてきましたが、2005(H17)年以降は額が一ケタ落ち、現在は年7~9千万円となっています。ただし2009(H21)年~2012(H24)年の4年間は、最大12億円を越える「原子力発電施設等立地地域特別交付金」も交付されています。
 また、表には記載しませんでしたが、電力関係からと思われる多額の寄付金(少なくなった電源三法交付金を補填するかのように)も入っています。寄付金は、2007年8億円、2008年2億円、2009年8億円、2010年6億円、2017年8億円、2018年4億円、2019年3千万円となっています。1992年以前の「市町村別決算状況調」では、寄付金は「諸収入」の費目で計上されていたのかもしれません。年度によっては「諸収入」が億を超えています。ともあれ、身の丈を越えた財源が投じられて財政が膨張した時期が約10年間ありましたが、2019年以降は電源三法交付金の交付額はわずかとなり、寄付金も入ってこなくなりました。幸いにも、現在は、普通の標準的自治体の財政の姿にほぼ戻っています。
 中間貯蔵施設の調査受け入れに際して西町長は、「調査受け入れで年1億4,000万円の交付金が国から入り、建設に同意すればさらに多額の交付金が入り、固定資産税も入れば、町の財政が安定していくことは間違いない」と述べています。確かに中間貯蔵施設の調査受け入れや建設同意で多額の電源三法交付金が上関町に入るのは確かです。しかし、西町長の願う「持続可能なふるさと上関町を次世代につなげる」営みは、電源三法交付金で財政を一時的に膨らませることによってしか実現できないことでしようか。
 何よりも、上関町は40年間にわたり莫大な電源三法交付金と寄付金を受け取っていますが、その間に人口減少を食いとめることはできませんでした。
 15基の原発を立地した福井県・若狭の町においても、町財政の膨張と反比例するように、人口減少は加速しています。上関町は阿武町と東洋町よりも人口減少率が10%も高くなっていますが、何よりこの10%の差に注目する必要があるのではないでしょうか。たとえば、1982年に上関原発計画が浮上して以来、推進派と反対派に分断された町内の住民間の長年の対立が、とくに若い人たちの心の中から愛郷心をそぎ取り、全町民が協力しあって町づくりに取り組む意欲を喪失せしめ、故郷離れを加速させた可能性もないとは言い切れないからです。
 上関町へのこれまでの電源三法交付金の交付額は、2005年以降は一ケタ減少し、2021年度は79,347千円となっています(県支出金にも県に交付された電源三法交付金が含まれることがあります)。しかし、2013年以降は現在に至るまで、電源三法交付金を受け取っていない阿武町などとの歳入総額の比較でも際立った差(優位性)は見いだせません。2021年度の歳入額を見てもわかるように、地方税収入+(国からの移転財源である)地方税交付金+国庫支出金(電源三法交付金を含む)の合計は、上関町は約26億円で阿武町が約31億円です。その差は約5億円。地方税収入の差約1億円を差し引いても、阿武町のほうが国から約3.6億円も多く受け取っている勘定です。一つには、人口が逆転したこともありますが、阿武町の歳入総額は上関町を上回っています。
 表 3をご覧ください。2012年のそれぞれの人口は、上関3,354人、阿武町3,749人、東洋町2,941人です。この年、上関町への県支出金の中には約12億円の「原子力発電施設等立地地域特別交付金」も含まれています。地方税収入a+国からの移転財源(地方税交付金b+国庫支出金c+県支出金d)の合計額は、上関町の3,559,917千円に対し、阿武町が2,398,968千円で、上関町が阿武町よりも約12億円も多く、その差が両町の2012年度の歳入総額の差となって現れています。
 かように、1992年以降は電源三法交付金や巨額の寄付金などによる収入増で上関町の財政(歳入・歳出)が身の丈を越えて膨張していました。
表 3の2012年度の上関町に交付された電源三法交付金の額は、国庫支出金のうちの76,000千円+県支出金(県に入った三法交付金のうち1,210,515千円が県支出金として上関町に入る)で、都合1,286,515千円です。まさしく電源三法交付金によるミニバブルです。しかし、2013年以降の現在に至るまでの期間は、上関町に入る電源三法交付金の額が一ケタ以上減少してゆきます。
 表 4 は2014年の決算(歳入)です。2014年は、地方税収入aと国からの移譲財源である地方税交付金b+国庫支出金cの合計額は、この間に上関町ほどには人口が減らなかった阿武町の方が当然多くなっています。一方、上関町が受け取る電源三法交付金の額は76,845千円しかありません。にもかかわらず、上関町の歳入総額はむしろ2012年度より2億円増えており、上関町より人口の多い阿武町の歳入総額を12億円も上回っています。
 ただ、上関町は繰入金(基金の取り崩し)1,523,160千円などで収支のバランスをとっているのです。電源三法交付金バブル期に計画されたであろう普通建設事業費 1,764,026千円の出費に充てるためでしょう。社会基盤整備のための普通建設事業費をすべて無駄遣いとは言いません。しかし、平成18~23年度まで公開されている「総務省・類似団体比較カード」を見れば、2006年~2014年のバブル期のあいだ上関町は、類似団体と比較してもかなり高い割合で普通建設事業費への出費が続いています。
 古来より「入りを量りて出ずるを制す」が財務会計の原則です。自治体経営においてもその原則は重要です。
 もう一度 表1で2021年度の3町の歳入状況を見てください。1981年より40年の時を経てそれぞれの金額そのものは大きくなりましたが(上関町と阿武町の人口は逆転しました)、上関町も他の2町と同じように人口規模に対応した標準的な決算数字に落ち着いています。電源三法交付金の額も一ケタ少なくなり、電源三法交付金バブルの呪縛からも解かれ、40年前の元の標準的なあるべき財政の姿に戻ってきたのです。
上関町の歳入総額4,419,006千円のうち、一般財源(A+B)+国庫支出金C の不足分については、ここには記載しませんでしたが、基金を取り崩したと思われる繰入金476,427千円があり、それで収支のバランスをとっています。

次の表5で、2021年度の歳出状況も見てゆきます。この年の普通建設事業費の約11億円はおそらく箱モノ建設に充てられたものでしよう。もっとも、インフラへの投資はどの町でも必要なときは必要ですし、この11億円の支出がはたして適切かそれとも過大なものなのか、この決算資料だけでは見えてきません。
 次の表 7は、総務省が公開している平成18~23年度までの「総務省・類似団体比較カード」を用い、上関町の歳入歳出総額や支出の内訳を、同町の類似団体(Ⅰ-2)を1として年度別に比較した表です。
福井県・若狭の原発立地自治体は、今まさに原発廃炉の時代をむかえています。ところが、原発依存の財政も終焉の時を迎えている今日においてすらなお、類似市町に比べ、普通建設事業費は高止まりの状態です。とくに電源三法交付金の多くは、箱物建設などへの過剰な投資的経費に向けられてきたため、後年、物件費や維持補修費の比率が類似市町に比べ軒並み高くなっています。上関町長たちが「このままゆけば上関町は破綻する」と口にしていることもあり、それが上関町でも同じことが起きているのではないかと当初考えました。しかし、懸念していたような兆候は顕著には見られず、表6のとおり、例えば経常収支比率の21年度の全国平均は88.0%でしたから、上関町の財政はきわめて標準的で健全であると言えます。
 特別会計や基金などへの「繰り出し金」は類似町村と比べ高くなっていますが、それは、財政調整基金や国民健康保険事業基金、介護給付費準備基金などのほかに、公共施設建設基金やふるさと振興基金、町立学校施設維持運営基金、三法交付金で建てた施設の維持運営基金など21もの基金が設けられているためで、ムダ遣いをせず後年度の負担を見据えたその堅実な施策については評価できます。
 上関町の普通建設事業費については、類似団体より多くなっている年が16年間のうちに8年ありますが、この16年の平均をとればほぼ1となり、それが恒常的に高止まりの状態になっている若狭の原発立地自治体と比べてみても過大とは言えず、今後の財政運営に深刻な影響を及ぼすことはないでしよう。このままいっても「上関町(の財政)が破綻する」要因とはならないはずです。

そこで伺います。
「上関町は、中間貯蔵施設建設に係る調査に伴う交付金、23年度分7400万円に続き24年度分を1億3000万円申請し、電源三法交付金バブルの再来を図ろうとしているようだが、原発依存の財政からの脱却をめざし、原発に頼らない上関町の町づくり計画を支援することが、県としての本来のあるべき姿勢ではないのか。見解をお聞かせください。

総合企画部長答弁・・・脱原発に関する御質問のうち、まちづくり計画の支援についてのお尋ねにお答えします。
 市町におけるまちづくりについては、地域の実情や住民のニーズ等を踏まえながら、その財源も含め、各市町において主体的に判断し、実施されるべきものです。
 県では、この基本的な考え方に立って、上関町の要望を踏まえ、広域自治体の立場から、県道の改良工事や、離島航路に対する財政支援などを実施しているところです。
 県としては、引き続き、上関町の意向を把握しながら、こうした取組を通じて、町のまちづくりを支援してまいります。

再質問・・・11月県議会でも指摘させていただきましたけども、原発のある大飯町の隣々接の宮津市は、将来負担比率はあの北海道の夕張市に次ぐ全国ワースト2位という深刻な財政であっても、電源三法交付金の誘惑に惑わされず、「持続可能なふるさとを次世代につなげる」賢明な道を選択されておられます。このことをどう思われますか、お尋ねです。

総合企画部長答弁…上関町の町づくり計画の支援に関する再質問にお答えをいたします。
 宮津市の選択、京都府の市だと思いますけども、その選択についてのご質問でありましたけども、先ほどもご答弁申し上げましたが、市町のまちづくりについては、その財源も含め、各市町において主体的に判断されるものであり、お尋ねのありました京都府の宮津市の選択について、山口県は見解を述べる立場にはございません。